内容分析のマテリアルとして、ラジオや音楽CDなど音源を扱うことができます。テレビジョン, アニメーション, 映画, ライブ録画, 音楽ビデオクリップなどに較べると動画が含まれていない分だけ内容分析は容易になりますが、歌詞以外のメロディーやリズムについては、楽典や音楽学に則って分析しなければなりません。
ラジオは音のみで構成され画を含みませんから、音声部分については文字に変換した上で紙媒体などの内容分析とほぼ同じ手順が適用できます。音楽部分については、この頁の後半、音楽CDの箇所を参照して下さい。
画は含まないものの、ラジオはテレビジョンと同様に放送局から番組形式つまりプログラムとして送られてきますから、その性格や把握の仕方は8-2-4のテレビジョンのときと同じです。地上波以外のチャンネルやインターネット利用に伴ない、視聴率が低下しているとはいえ、まだ全世帯の多数派が何れかの地上波チャンネルを視聴しており、あまねく普及しているという意味でマスメディアの役割を果たしています。それに対してラジオ聴取率は著しく低く、影響力が広汎に及ぶということはありません。テレビジョンを全国紙に喩えれば、ラジオは個別特定の雑誌のようなものでしょうか。
一方、毎日数時間以上聴取するヘビーなリスナーも存在しています。タクシーの運転手さん、手芸や工芸など在宅作業をなさる方、音楽ファン。こういった方々に係わる研究テーマや仮説を扱うのであれば、ラジオ放送の内容分析は、テレビジョンや新聞のようなマスメディア以上の意義を有しています。各局の特定の番組や時間帯に流される楽曲名のみを書き記し、そこでのアーティストやジャンルの大まかな分布や傾向を調べるという最も簡便な内容分析を行なうだけでも有用でしょう。ヘビーなリスナー イコール 音楽ファンにおいては、特定のFMラジオ局の番組聴取と、特定のジャンルの音楽の好みが一致していることなどが予想されます。
音楽CDの内容分析は、大きくは二分されます。それは、歌声アバウトイコール歌詞の分析とメロディーやリズムといった音楽自体の分析です。先ず、歌詞の分析を考えてみましょう。簡単な方法はCDに付属する歌詞カードなどを用いることです。紙媒体のときと同じやり方が準用できます。ある年のCD売り上げベスト10を調べてみたら、二人称で「きみ」を用いる楽曲が5曲であったが、その10年前には「あなた」が9曲も占めていた、という集計も可能です。ただし、注意しなければならないのは、録音された歌声を文字化したものと印刷されたCD付属の歌詞カードは厳密には異なるということです。リフレインで繰り返されるフレーズは多くの場合、歌詞カードでは省略されています。例えば、楽曲中で歌われている「恋している」というフレーズの出現頻度を数えたい、といった場合には実際の歌声をマテリアルにした方が正確です。
メロディーやリズムの内容分析は、楽典や音楽学の知識を前提としますから上級者向けですが、長調(メジャー)か短調(マイナー)、三拍子や四拍子など、といった初歩的な分類であれば初心者でも大丈夫です。不況の時には、意外にも長調の明るい楽曲が流行し、反対に好景気だと短調が好まれる、といった予想の真偽も簡単な調査ですぐ確かめることができます。
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