社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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8-2 内容分析のマテリアル(分析媒体)は逃げもしないし, 隠れもしない
8-2-6 日記, 手紙, メールなど私的文書


 日記や手紙など私的文書の分析は、伝統的にはドキュメント分析というように呼ばれることが多かったのですが、どのようなマテリアルであれメッセージを定量的かつ定性的に測定するのであれば、それは内容分析と呼ぶべきものです。新聞や雑誌とほぼ同様な手順が使えますが、私的文書ですから研究成果の公開公表に制約があるのは当然のことです。
  • 日記、手紙
  • メール
 著名人の日記や手紙が書籍などのかたちで刊行されていれば、それらを用いた内容分析は、用いられた単語の頻度測定など、新聞や雑誌とほぼ同じやり方で行えます。私的文書であっても、既に公刊されており、とりわけ故人のものであれば、原則として、研究利用に制約はないでしょう。定性分析つまり質的分析では、文言を直に引用することもできます。しかしながら、公刊されてはいるものの私的文書であることは間違いありませんから、家族親族友人など関係者が存命中である可能性も考慮し、故人を貶めるような記述は慎まなければなりません。手紙の場合は差出人のみならず受取人についても同様に留意しておきましょう。
 ある時代に似たような境遇や社会環境の中で生きた複数の人びとの日記や手紙にアクセスできれば、大変有用なマテリアルとなります。それらは、その時代に遡ってインフォーマントに面接したり、レスポンデントに質問紙調査を行なったりすることと同じ意味を持っているからです。面接法やアンケート法では過去に遡ることは不可能ですが、その書き手の思いを綴った一群の日記や手紙の内容分析でそれを代用することができるのです。
 存命中の方の純然たる私的メールを内容分析のマテリアルとすることは、仮に差出人と受取人の双方が許諾しており、個人情報が特定されない統計処理を前提としていたとしても、例外を除いては、避けるべきでしょう。ただし、国や自治体、学校や企業、各種公的な団体が発信元となっており、私人の情報を含まない公的文書の性格を有したメールならば、8-2-2で述べた、機関紙や機関誌、フライヤーやチラシなど紙媒体の刊行物と同様に扱うことができます。
 もし1000年後にメールサーバーのコンピュータが考古学調査によって発掘され、現代のわれわれが読み書きした私的メールの電子情報が再現されたならば、その時は、未来の社会学者、歴史学者、考古学者たちが21世紀の日本社会を知るために、きっとメールをマテリアルとして内容分析を行なうでしょうね。公開設定のブログや半公開のSNSなどにも現れない21世紀人の生々しいホンネが読み取れることでしょう。

 


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