社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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5-1 基本編―フィールドワークを始める人へ
安全・関係・時間
5-1-13 安全



フィールドワークは体力勝負ではありません。体力、体調、気力をいかに自覚しコントロールできるか、自己管理は最重要課題です。予防接種には一定の期間を要します。常備薬、救急箱も用意しておきましょう。とくに異なる環境での長期滞在の場合、その社会に溶け込もうとする姿勢は大切ですが、自分の要望も伝えながら環境から学んでゆきましょう。あなたがそこで長く生活し、周囲の人々とともに気持ちよく仕事をするには何が不可欠ですか。

フィールドワークの体験は、それまで認識していなかった世界観をつきつけられ、調査者のものの見方や、価値観が大きく揺らぐこともあります。カルチャーショックを受けることは、自分がもつモノサシを見直すよい機会です。しかし、自分が受けている衝撃を自己分析する余地がまったくない状態を続けることは危険です。心身とも無理をしない。フィールドワークの基本です。

状況を知る手段はありますか。悪天候や自然災害にはどのように備えますか。ニュースは、とくに政治的な出来事については、誰が何のために誰に向けて報道するかによって、しばしば内容が異なります。情報を入手するだけでなくどう“よむ”かは、難しい問題です。またマスメディアの報道から受ける印象と住民の実感がずいぶん違う場合もあります。自分で情報を集めるだけでなく、可能であれば、その問題についてよく知る人に意見を求めましょう。私の場合は、現地に本当に信頼して相談できる人がいるかどうかが、出発を迷うときの判断の拠り所のひとつです。

あなたが人からどのように見られているのか、現場の文脈のなかで想像してみましょう。夜道など一人では対応できない状況を作り出さない。ある場所で普通の服装も、所がかわれば非常識だとみなされ、海外では、甲南九郎いう名をもつ個人としてではなく「日本人」として扱われ戸惑うこともあるかもしれません。周囲の人々とのあいだに生じる緊張や誤解、そのひとつひとつを解いてゆかなければなりません。また、目標に向かって突っ走っているとき、没頭して周囲が見えない状況にも注意しましょう。写真を撮影しているときなど、カメラのレンズから見える範囲に集中して、自分の足元が視界に入っていないことがよくあります。現場ではそんなことを考えている余裕など実際にはないものです。だからこそ時々立ち止まって、意識してください。

現場からいつでも戻れる場所を、拠り所を用意しておきましょう。立ち止まること、その場から離れること、一時の休憩は必要です。ある学生からの感想です。「フィールドワークは正直、しんどいと思う。とくに人との関わりをもつテーマなどは神経を使い疲れる。そのときに自分のお気に入りの世界を持つ。私は、本が好きだから本をあげたけれど、音楽が好きな人は音楽を聞くのもよいと思う。のめり込むことはいいけれど、時にはくじけたときに気持ちをきりかえることができる。またのめり込みすぎているときに冷静になれる。」

フィールドワークは、時には一人で多くのことを決断しなくてはなりません。不穏な事件に巻き込まれワケガワカラナイ混乱に陥ったり、コミュニケーションの齟齬に悩むこともあるかもしれません。どのような状況でも、自分の存在をそこにいない誰かに伝える手段がありますか。大げさかもしれませんが、どこかで人とつながっていること、自分の足跡を残すことが、孤独を支え生きのびる手立てとなります。

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