フィールドワークでは、身体の感覚をより意識的に活用し情報を収集します。五感をとおしてどのような情報をえることができるのか、いろいろと想像してみてください。「人にやさしい住宅とは?」と考えていた学生にとって、祖父から話を聞きながら感じた“畳触”は、卒業研究をすすめるうえでひとつのヒントとなりました。たとえば、あなたの街の「雑踏」はどんな音や匂いがありますか。何かを少し意識するだけで日々の暮らしの風景が変わってきます。
心身をとおしてえた情報は、道具を使って扱いやすいかたちに置き換える作業を、臨機応変に行います。五感を意識して活用し、それをいかに記録するか。記録の道具や機材の準備が不可欠です。フィールドワークとは、現場で過ごす時間よりも、情報を記録にとどめ、第三者に資料として提示しうるかたちに整理、編集する作業に、何倍もの時間と労力を要します。
記録を次のような3つの状況に分けて考えると、必要な道具も想像しやすいでしょう。
道具を用いてかたちにするだけでは「記録」としては不十分です。それを位置づける情報が必要です。いつ、どこで、誰が、誰から、どのようにして、どのような内容の情報をえたのか、などなど。たとえば、「一枚の写真」があります。5月14日撮影。しかし、歳月がすぎると、他の人には、それが2006年か、2001年なのか、分かりません。記録作成者にとってそのとき「自明」のことが、他の人には「不明」です。他者が、あるいは10年後のあなたが、それをデータとして利用しうるかたちにしておきましょう。
たくさんの記録、多方面にわたる情報を分類、整理し、用途におうじたかたちに加工、編集、図表化する作業をここでは資料化とよびます。整理したデータ提示は調査報告の核となります。記録、資料化の作業は、現場から学ぶフィールドワークには不可欠な技法です。記録を作成し、向き合うなかで、初めて気づくことや、情報をよみとる手がかりが見えてきます。情報を収集するだけでなく、記録、資料化の作業のなかに思考のプロセスがあり、新たな発想や発見が生まれてきます。
調査者がもちかえった情報をどのように管理し、処分するのでしょうか。とくに質的調査の記録には、より多くの個人的な情報が含まれまれます。情報一つ一つの扱い、管理を慎重にするのはもちろんのことですが、調査研究をとおして蓄積してゆく膨大な記録を、最終的にはどのような処分をするのか、情報の消し方も重要な課題です。それは、フィールドワーカーがもっとも直面したくない問題かもしれません。
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