社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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5-1 基本編―フィールドワークを始める人へ
構想・企画・実践
5-1-7 周到な準備―あたって砕けるな



フィールドワークはとにかく現場にゆけばよい、と考えている人がいるかもしれません。行動力や直感も大切ですが、あらゆる種類の調査において、事前にどれほど情報収集、準備ができているかは、調査の進展を大きく左右します。現場を全て予想することはできないからこそ、フィールドワークには周到な準備が必要です。当たって砕けていては仕事になりません。

調査は、多数の作業、行為の組み合わせです。取材へ行く時間はあるのか、費用はどうする、どこで誰に会うのか、どうやって連絡、交渉しよう、事前に何を調べておくか、移動、宿泊はどうする、記録のための機材、用具はどうする、サポーターが必要か、どの鞄でもってゆこう、お土産は必要か、謝礼はどうする、名刺が足りないぞ、何を着てゆこう?などなど、一度に考えると混乱しますが、一つ一つの作業内容は複雑ではありません。協同作業をスムースに行うためにも、調査の全体的な作業工程を、いまいちどシュミレーションしてみましょう。

調査の内容、規模におうじて経費がかかります。資金を工面するためには事前の対策が必要です。アルバイトをして資金をため、研究助成金や奨学金募集に応募し、調査プロジェクトに参加するチャンスを探るかもしれません。居住地や勤務地などの場所や組織のつながり、個人的なネットワークを利用して、身近なところで多額の費用をかけず調査ができることもあります。お金がなければ調査研究ができないのではなく、その時、何ができるのかを現実的に検討しながら計画、実践してゆくことになります。

卒業論文も修士論文も「論文」というものには、提出期限が設定されています。卒業論文を提出後、多くの学生が、「もっと早くから始めておけばよかった」、「時間が足りなかった」と感想を残します。締切は事前に告知されているのですから、時間配分を誤ったというのが実情です。調査計画においても、時間の制約と可能性を検討してゆかねばなりません。

調査を始める際に、誰にどのようにしてコンタクトをとるのか、公開された窓口(行政、会社の市民、顧客サービスの受付、HPの連絡先など)を利用する場合もあれば、知人からの紹介や個人的なつてをたどる場合もあります。誰にどのように紹介してもらおうか。職場へ連絡し取り継いでもらうのか。調査協力の依頼は、文書を郵送するのか、メールやFax、電話では失礼だろうか。先方からの問い合わせ、クレームの連絡先はどのように設置するのか、など。最初の一歩は戸惑いますが、いろいろな縁がつながり、調査をとおしたネットワークができてゆきます。

調査を準備する際に、調査内容ばかりに気をとられがちです。しかし、調査の協力を依頼するには、まずは自己紹介が必要です。相手に自分をどのように位置づけるのか。名刺は役にたつだろうか、大学など所属先からの文書が必要か、自分のプロフィール、活動、業績の一覧をつくっておこうか、家族の写真なども場の緊張をほぐすのに役立つかもしれない、など、相手によって自己紹介のかたち、方法も異なります。海外での調査の場合、「日本ではどうなの?」と質問されて説明に窮することもあります。自己紹介とは、あなた個人を紹介することとは限りません。

社会調査の講義でフィールドワークに用いるモノについてコメントを書いてもらいました。学生からの意見には、記録のためだけではなく、多様な目的の道具が記されていました。資料や道具の収納、運搬用具、取材相手への印象や現場での動作を考慮した服装etc。同じ物でも用途はさまざま。フライヤーに直接書き込まないための付箋、両手を開けるためのリュック、手元からすぐに取り出せるように斜めがけのポーチや胸ポケットのついた服、など、具体的な状況を想像して、道具から想像してみると、また違う角度からフィールドワークを考えることができます。


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