5-1-9 いろいろな「みる」
5.おわりに
以上のように、グラフィティの観察や調査においては、その背景における文脈を考えたり、観察者自身の立場の違いなどによって多様な解釈が可能になることを留意するなど、「みる」行為をめぐる面白さや難しさに何度も直面することとなりました。
特に「これは自己表現なのか、違法行為なのか」といった線引きが曖昧となりやすいグラフィティのように、つかみどころがなく、社会規範においてグレーゾーンに位置し、賛否両論となるようなテーマを調査対象とする場合は、“みる”ときにおいても多様な角度からの慎重な検討が必要になってきます。 そしてグラフィティに限らず、あらゆるテーマにおいてフィールドワークを実施する際には、「みる主体」としての自分の中に、どういう「思い込み」や「見落とし」があるのかをたえず自問し、再確認する必要があります。その際に、観察している対象をめぐる「文脈」に着目したり、自分とは立場や状況の異なる人にとってその対象がどのように見えてくるのかを想像したりする、そのような探求の積み重ねが、フィールドでの実り多い出会いや発見につながっていくのではないかと考えています。 【了】 |