すでに文字、絵、動画、音声などある程度のかたちが固定されたモノを、ここではひろくドキュメントとよぶことにします。日常にあふれるドキュメントたちは、あなたが何に注目するかによって多様な分析が可能な貴重な資料となります。刊行されている新聞、雑誌、議会議事録、市町村の広報、タウン誌や、新聞のあいだに挟まれた広告、音楽、映画、イベントなどのフライヤー、包装紙、町内会の規約、会報、会計報告、看板、落書、さらに個人的な記録、たとえば日記、アルバム、手紙、家計簿、ホームペイジの掲示板の発言録、などなど、無数にあります。
収集したさまざまなモノを調査資料として扱うには、どのような手続きがいるでしょうか。だた「集める」だけでなく、それを位置づける情報が必要です。たとえば路上ライブの調査で演奏者が宣伝につかっているフライヤーを集める。どのようなデータを付記するか。フライヤーを収集した年月日、曜日、時刻、場所、配布者、演奏者、その場の状況など。そのドキュメントを位置づける基礎データが必要となります。ある学生は、これを「データの素性」と表現していました。
ドキュメントの何に着目し、どのような意味を見出すかによって、ドキュメントの整理の仕方、分類も変わってきます。Tさんの研究テーマは、「個室化する家族」。期間と地域を限定し、住宅販売の新聞の挟み広告を218枚収集しました。上質紙の広告の束はどっしりと重く、それだけで貴重な資料ですが、どのように使うのか。Tさんは、あえてキッチンをめぐる空間に注目しました。台所を含む空間の間取りとコピーを広告から抜粋、とりあえずエクセルに広告の文面をどんどんと入力してゆきました。表に打ち出された数百のコピー群を眺めているうちに、あることに気づきました・・・・。
さまざまな記録、ドキュメントから何らかの情報を抽出し整理、加工しているうちに、共通点や傾向に気がついたり、分類するためのコンセプトがみえてきます。分析枠組が先にあるとは限りません。手作業をしながら思考する、データのなかから発想する、伝えながら道筋が見えてくる、そんなプロセスがフィールドワークの楽しみです。
▼資料の組合せ、プロセスが楽しいフィールドワークの本
鵜飼正樹、高石浩一、西川祐子『京都フィールドワークのススメ』昭和堂、2003年
ドキュメントは他のデータを組み合わせてさまざまに活用できます。たとえば、ロンドンのコミュニティ調査において、地域の変化を知るために住民へインタビューした際には、ローカル新聞や写真のコピーを資料として利用しました。あるストリートの年代別の住宅写真、私には同じようなヴィクトリア朝時代の建物の連続に見えます。ある住民はその写真から、1つ1つの建物が何度も修築されその時々の家主のステータスを示すシンボルが随所に埋め込まれていることを解説してくれました。ある人は、ストリートの近所つきあいがあった時代を懐かしく語ってくれました。誰が、どのように読むかによって、ドキュメントの意味は変わってきます。
|