社会調査工房オンライン-社会調査の方法
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5-1 基本編―フィールドワークを始める人へ
収集・記録・発信
5-1-10 いろいろな「きく」



フィールドワークで扱う音は人の声や、ある様式をもった音楽やリズムだけではありません。耳から入るさまざまな音や響きは、意識しないと気がつきません。ましてや相手がもつ「音の記憶」や五感を想像することは難しい。人の話をきくときも、話題となった場所へ実際に行ってみて、いろいろな音や風景や空気を感じるとはっと気がつくことがあるかもしれません。

日々の暮らしのなかでも、人の話をさりげなくきく機会があります。大阪の市民プールのジャクジーにつかっていると、利用者のさまざまな会話が耳に入ってきます。複数のスーパーマーケットの安売り情報、近所のホームレスの話や、プロ野球の試合結果、など。フィールドワークでは、こうした日常会話も地域や社会を知る情報源です。私は、バングラデシュ農村に滞在中は、毎夕、竈の周囲に座り、食事の準備をする母親、子供たちの会話を聞いていました。外出する機会が少ない女性たちだからこそ、情報網をしっかり握り、実に多彩な噂話を耳にすることになりました。

インタビューでは、聞き手が石のように固まっていては話になりません。話し手と聞き手のあいだには、なんらかのやりとりがあります。しかし、「きく」テクニックをどれほど学習しても、ことばがスムースにでてきて、タイミングよく相づちをうつことができ絶妙な間がとれるようになっても、もっとも大切なことは相手と向き合うときの気持ち、姿勢です。あなたが「どのような聞き手でありたいのか」によって、話のやりとり、場の雰囲気は変わってきます。

実際には「きく」(あるいは尋ねる)かたちを厳密に分類できませんが、いくつかのインタビューの種類を知っておくと、準備をするうえで役にたちます。たとえば住原(2001年、153〜159頁)*では、インタビューをひとまず4種類に分けて説明しています。
  1. 非公式なインタビュー(informal interview)
  2. 系統性をもたせないインタビュー(in-depth, open-ended unstructured interview)
  3. ある程度、目的に沿ったインタビュー(semi-structured interview)
  4. 厳密に作られた質問表に答えさせるインタビュー(structured interview)
*住原則也、箭内匡、芹澤知宏『異文化の学びかた・描きかた〜なぜ、どのように研究するか』 2001年.世界思想社 第4章 住原則也「フィールドワークを通じて学ぶ方法」

聞き手の位置、相手との向き合い方の形式もさまざまな場合が考えられます。たとえば・・
  1. 話し手と聞き手の対面
  2. 複数の話し手と進行役
  3. 話し手、聞き手の役割のない雑談
  4. 不特定多数の会話の聞き流し

対話、会話をするときの互いの位置も大切です。ある学生からのコメントです。「質問するときの自分の位置は重要だと思った。街頭アンケートでも、真正面からこられると威嚇されるが、横にすっとつかれた方がしゃべりやすい。たぶん、前にいる時よりも横にいてくれたほうが、無意識に逃げようと思えば逃げることができる気がするからだと思う」。

誰かに話を聞く際に、3つの資料を用意しておくと便利です。ひとつは、あなた自身を紹介し取材の目的を相手に伝えるための資料です。2つめは、取材対象やその人の活動を知る資料です。3つめは、相手から話しをきくための素材です。写真、地図、音楽、雑誌、などなど、記憶を引き出したり、話をより具体的にするのに役立つものです。状況におうじて、これらの資料や素材を利用します。

インタビューの目的、種類、形式、状況、などによって何をどのように記録するのか、録画、録音、メモをとる、など一様ではありません。聞き役、進行役と記録係を分けて担当する場合もあります。録音を文字化する際にも、全てをベタ起こししたり、適当な箇所だけを文字にしたり、話の内容を記録者の言葉で要約してまとめたり、必要な情報だけを抽出して所定の用紙に記入するなど、さまざまです。音声を文字におこす作業は、話者が選んだ一つ一つのことばにふれる新鮮な体験です。インタビューの現場とは違う発見があります。

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